指揮者デビューしてません。ご安心ください。
コレペティは歌劇場で修業を積んで後に指揮者になる、という話を聞いたことがあるかと思います。実際にカラヤン、ショルティ、ティーレマンなど沢山の巨匠がコレペティートアの職を経ていますね。
歌劇場の音楽チームの仕組みに秘密があります。日本の現場では指揮とピアノは明確に分かれているのですが、ドイツの劇場では (他の国でも同じかも) その線引きがあいまい。基本全員コレペティで、その中から指揮できる人が立ち稽古(演技付き練習)を振り、さらにその中で上手い人が本番を振ったりするのです。
指揮者を兼ねる場合は、採用の時に指揮の試験もあります。ただ、指揮者として採用されていなくても、振りたければ立ち稽古で振ることができます。目指したい人にとっては、経験を多くつみ、徐々にステップアップできる最高の場所ということですね。
私はコレペティのリーダーに「君は指揮どれくらいできるの?」「指揮したい?」と何度も聞かれました。できるかどうかじゃなくて、どれくらいって、は? 大学で超初心者指揮法はやりましたけれど、個人的に全く指揮をしたくないので、「100%ノー!ムリ!デキナイ!」と何度きっぱりお返事したことでしょうか。ノーっと言えない日本人を発揮して 「ええっと、まぁ、うーん」とか答えたら、大変なことになります。
そうやって頑なに断っていたのですが、一度だけ立ち稽古の時、指揮者の場所に座ったことがあります。ヤナーチェクのオペラ「イエヌーファ」の練習で、指揮のできるコレペティが全員違う現場に行ってることがありました。その日「イエヌーファ」に行けるのは、私を含め指揮できない者が二人。指揮者の合図を頼りにしていた歌手から、「指揮はなくてもいいから、合図が欲しい」と強い要望がありました。
合図だけとはいえ、二人とも指揮っぽいことをしたくないので、ピアノ担当の取り合いです。その時点で本番指揮者のテンポを知らなかった私は、残念ながら負けました。「テンポを知っている私が勝手に弾くわ。あなた合図係りね!決まり!」とニコニコで言われ、反論の余地なし。なんでも体験と思えばありがたいのか、ぐすん。
当日は本番のセットを舞台に組んでの練習でした。オーケストラピットの真ん中に座るだけでガクブル。こっち見ないで~って感じで。かといって見てくれなかった時は悲しくなるという矛盾。合図だけとはいえ本当に難しいですね。
必死の練習と緊張とで終了時にはすっかり力尽き、達成感というより虚脱感たっぷりでした。たぶん、1ミリくらい役にたったと思う。思いたい。そして油断して、現場にiPhoneを忘れて帰りました。数時間後に気が付きましたが、そこは外国、戻ってきませんでした~。うわ~ん。号泣
常任指揮者には、「君、指揮者デビューしたんだって~、聞いたよ」と言われ~の。いや、違うから。色々な意味で、記憶に残りすぎる体験でした。
普段、ピアノを弾きながら合図することはあり、そんな時に的確な体の動きができたらと思いますが、職業としての指揮はね、やりたい人に任せます。
写真は、大学の授業のために買った指揮棒。それからイエヌーファのゲネプロです。床が波打ってるという印象的なセットでした。
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